桜月夜の守人と呼ばれる三人の男性は水兎を神殿の最奥へ連れていった。 黒大理石が磨かれたひんやりとした空間は神秘的でありながら、どこかよそよそしい。 きょろきょろと周囲を見回しながら、水兎は問いかける。「ここは……?」 「裏緋寒の乙女に選ばれた者を神に捧げるための室(へや)だ」 「竜神さまは眠ってらっしゃるのに?」 「その竜神さまを起こすために君が持つ桜蜜をここで搾取する」 案内された石造りの台に座らされ、水兎は首を傾げる。自分は桜蜜という人ならざるモノたちが大喜びする体液を持っているのだという。血や涙を捧げれば彼らはひとたび歓喜し、人間の願いを叶えるのだとか。ということはこの場で自分は殺されてしまうのだろうか。生贄という言葉が思い浮かぶ。「こらこら、夜澄。脅すような言い方するなって」 「清雅(せいが)。だが、この娘はまだ生娘だ」 「だからなんだ? 竜神に触れられただけで桜蜜を身体中から放出できるよう調教するのも俺たちの役目だろ」 「無垢な少女を竜神好みに仕立て上げる過程で情が湧いたらどうする」 「そんなこと心配するのはお前くらいだぞ。そもそも表裏の緋寒桜は竜神に捧げられる供物だ」 「……そう言ってお前も何も知らない裏緋寒の乙女を手籠めにするのか」 やってられないと夜澄が室を離れていく。気難しそうな青年が姿を消して、水兎の前には清雅ともうひとり、白い浄衣を着た守人がいる。「夜澄のあれはいつものことさ。気に病むことはない。それに桜蜜を分泌させる儀式なら三人いなくても問題ない」 「はあ」 「僕は桜蜜がどのように分泌されるのか、どのような状況で多く生み出されるのか興味を持っている。竜神の愛玩花嫁を可愛がる趣味はない」 「照吏(てるり)」 「清雅クンは神々の使命に従い素直に君から桜蜜を出させようとするだろう。僕は手助けするが、純粋な人間であるがゆえに桜蜜を味わえない」 「つまり、清雅さまは桜蜜の味がわかるのですか?」 「余計なことを言うな、照吏」 「おお怖い怖い。さすがは狼神の血を引く“雪”(ウバシアッテ)なだけあるわい」 くすくす笑う照吏と、それを睨みつける清雅に挟まれて、水兎は困惑する。自分が持つ体液を捧げて竜神さまを起こすのが裏緋寒に選ばれた水兎の役目だと、長からは言われたが、その体液を出すためにこの場で何かが行われ
竜神さまが棲まう集落、竜糸には表裏の緋寒桜と呼ばれる御遣いがいる。基本的に至高神に魅入られ巫女としての修業をした女性や神官一族から選ばれた少年などが神に仕えるものが集う神殿に召喚される。時代によっては神の気まぐれで男だけの表裏の緋寒桜がいたとか表が双子であったとか表裏のはずが三人いたなどという記録も残されているが、だいたいは表が男性で裏が女性、表裏ともに女性のみの術者であることが多い。 ちなみに表は竜神のちからを依代にすることから代理神とも呼ばれ、基本的に神殿内で高い地位についている。その一方で神々を悦ばせる体液――人ならざるモノだけが感じることのできる特別な甘い蜜は通称”桜蜜(おうみつ)”と呼ばれている――を持つものが神の花嫁として愛玩される裏緋寒であった。 冥穴(めいけつ)からあらわれる悪しき鬼たちは表裏の緋寒桜のちからを持つ者を警戒していた。それでいて表緋寒がもつ神に等しいちからを欲し、裏緋寒が産み出す桜蜜に恋い焦がれ、どちらも自分たちのモノにしようと神々と対立していた。 そこで裏表の緋寒桜たちを守るべく至高神によって命じられ神殿に配備されたのが、桜月夜の守人と呼ばれる神に近い三人の護衛である。 これは、竜神の花嫁として裏緋寒の乙女として迎えられた”雨”の娘が、禁じられた恋に溺れて身を滅ぼす哀しいおはなし。 * * * ルヤンペアッテの娘は”水兎(ミト)”と呼ばれていた。水に遊ぶ兎。小さく賢い少女は神殿からの迎えを素直に受け入れ、桜月夜の守人に連れられ竜神が眠る竜糸の中心部に足を踏み入れる。「……なぜ、竜神さまは眠っていらっしゃるの?」「先の戦いで傷ついてしまったからですよ」 慣れない巫女装束に袖を通して、黒髪の水兎は藍色の瞳を曇らせる。竜糸の地は大陸のなかでも異界から湧き出る悪しきモノが出没しやすい特徴を持っていた。冥界の穴――冥穴と呼ばれる深淵の奥から彼らはヒトの姿を模して襲いかかってくる。その結界を守護するのも、神殿に暮らす術師たちの役目だ。 だが、先の戦いで結界は破られ、竜神は人間を守るため自らを犠牲にして彼らを退けた。その結果、竜神は傷つき、湖の底で深い眠りについてしまった。「竜糸特有の代理神制度は打たれ弱い竜神に代わり、表裏の緋寒桜が集落を守護するために生まれたものです。ミトさまが召喚される以前も竜神は湖の底から代理神
「もぉ……はやく挿入(いれ)てよぉ……っ」 「いたずらが過ぎたな。わかったよ」 「――っわっ!」 朱華の懇願とともに、夜澄の灼熱を帯びた楔が蜜洞へと侵入していく。 ぐい、と一気に最奥まで抉られたにも関わらず、桜蜜が大量に分泌されていたからか、痛みよりも深い快感が朱華を圧倒した。両腕で上半身を拘束されたまま、夜澄の剛直が蜜壺の奥深くまで蠕動していく。 幽鬼となって冷たく無機質な水晶で朱華の膣内を蹂躙した未晩の行為とはぜんぜん違う、気持ちの良い夜澄自身のぬくもりに、身も心も呆気なく奪われていく。「ひゃああ……すご、い」 「お前の膣内(なか)、気持ちいいな」 「止めないでよぉ」 「止めないと、お前を壊してしまいそうで怖いんだよ」 「壊れないってばぁ……――あっ」 苦笑を浮かべる朱華に、夜澄は観念したのかゆっくりと動きを再開する。 規則的なゆるやかな動きはやがて不規則で激しいものへ変化していく。 ひとつに繋がった場所からは絶え間なく桜蜜が分泌され、敷布をとめどなく濡らしている。「あああん、あんっ!」 「俺も……イきそうだ」 そのままぐいっと押し付けられ、蜜壺のなかに熱い液体が注がれ、蜜口からとろりと白濁が顔を出す。 桜蜜と混じった白濁によって身体を濡らした朱華は打ち上げられた魚のようにビクンビクンと震えている。 ともに絶頂を迎えた夜澄は満足そうに瞳を閉じる朱華を前に、残酷に告げる。 「――悪い。まだ足りない」 「あんっ……ふぇ?」 繋がった状態のままひょい、と抱き上げられ、湖の見える硝子窓のところへ連れていかれる。誰かに見られるかもしれないのに、と顔を紅潮させ焦る朱華に夜澄は平然とした顔で告げる。「この体勢ならお前の身体に負担がかからないだろ?」 「……で、でも、外が」 「全裸で幽鬼と立ち向かったお前が何を言ってるんだ。見せつけてやろうぜ、俺たちの選択を……誓ってくれたんだものな。俺と――……」 「あっ……あんっ、ひゃああああああんっ!」 何かを振り切ったかのように夜澄は腰を盛大に動かし始める。抱き上げられた状態で、灼熱に貫かれた朱華は甲高い嬌声をあげながら、さきほどの夜澄の言葉を反芻させる。 ――誓ってくれたんだものな。俺と生きる未来を。 少年のように貪りながら
「……後悔するなよ?」 そう言って、夜澄は朱華の朝衣を脱がし、寝台の上へ横たわらせる。 左肩より先のない彼女の身体に負担をかけないよう、夜澄も裸になり、右側に横たわる。 両腕で朱華の首を支え、夜澄はぺろりと色づいた乳首を舐めていく。「後悔って……あっ……っく」 「俺みたいなはぐれ神の花嫁になっても、集落を再興することはできないぞ」 「そう……だね」 ぷくりと勃ちあがった左右の胸元の蕾を交互に味わいながら、夜澄は未だ不安そうに朱華に訊く。「それでも、傍にいてくれるか?」 桜月夜のふたりの仲間はそれぞれの道を選んだ。 夜澄だけが未来を見つけられず、ただ、朱華の傍にいることしか望めない。 彼女がいればそれだけでいい、かつて裏緋寒の番人で彼女の成長を見守ってきた逆さ斎の未晩の気持ちが、いまになって痛いほどよくわかる。「ふぁ……ああんっ」 カリっ、と乳首を噛まれた朱華はビクッと身体を浮かせ、夜澄の腕のなかで身悶える。 夜澄によって身体を火照らせていく朱華は、快楽に身を投じながら、花が綻ぶような表情で夜澄を見つめ、応える。「あ――当たり前、じゃない……あたしも、夜澄と一緒に生きたいよ?」 朱華の言葉に夜澄は安心したように微笑み、ふたたび乳首を甘嚙みする。それだけで彼女の蜜壺はきゅうん、と疼き、蜜口から桜蜜がとろとろと零れていく。 やがて夜澄の口は朱華の下腹部を通り、桜蜜が流れる太腿へ到達する。ぺろり、とひと舐めした彼は、それだけで自分の分身がさらに熱く、勢いを増したことを認め、彼女の首から腕を放す。 剛直をなめらかな太腿に滑らせ、夜澄は桜蜜をまとわせたそれを、朱華の蜜口へと運ぶ。 亀頭が掠めただけで甘い吐息を漏らす朱華を焦らすように、夜澄は真面目な表情で改まって口にする。「俺は、お前の苦しみを支え、悦びを分かち合える片腕になる……だから」 ――誓ってくれ。ともに生きる未来を。 竜神の花嫁になれと言われた時
朱華はうたうように神の求婚に応え、彼の唇を奪い取る。 気づけば至高神の気配は遠のき、氷辻の姿も消えている。夜澄は時を止めるかのような長い口づけを夢のように感じながら、舌先を転がしていく。 そのまま、朱華が恍惚とした表情で夜澄を受け入れるのを確認してから、未晩が刻みつけた接吻の痕を消毒するようにひとつずつ、舐めとっていく。「っふ、あ……んっ。夜澄……」 青ざめていた表情には朱が戻り、自分を呼ぶ声にも艶が混じる。どこか非難するような彼女の声を無視して、夜澄は傅くように、口づけを贈りつづける。 やがて、蝶が蜜を求めるように身体中を廻った夜澄の唇は朱華のそれへと再び舞い戻る。 衣を乱されながら全身に口づけを受けた朱華は、それだけで自分の蜜壺が潤ってしまったことに気づき、恥ずかしそうに顔をそらす。「……だめ、そこは」 「濡れたのは、俺だからだろ?」 無言で認める朱華の髪を愛おしそうに撫で、夜澄はもう片方の手でしっとりと濡れそぼった秘蜜の花園へ指を進めていく。先ほどまで死んだように眠っていたというのに、まるで春の訪れによって芽吹いた花木のように、朱華の身体は敏感に反応している。「うん……夜澄だから」 未晩に触れられたときはけして受け入れようとしなかった蜜口も、いまはとろとろだ。 幽鬼となった彼が水晶で強引に押し入れられて自衛するようにすこしだけ濡れたが、それは生理的な現象に近くて、快楽を伴う愛液ではなかった。だから彼に裸に剥かれて唇や手や道具で全身を触れられても……ぞわぞわした感覚だけに苛まれて最後まで桜蜜を分泌させることができなかった。 それなのに、夜澄に触れられると、繋がる前から溢れるように朱華の身体はあまいあまい蜜を生み出すのだ。 至高神に認められた今、このまま夫婦神の契りを結べば、さらに快楽に溺れる身体へ成熟し、やがては神との子を孕むことになるのだろう。「そうだ。俺だけを感じろ……未晩の痕は快楽で上書きしてやる。何度でも刻みつけて、貫いて……」 「あぁっ!」 「お前のすべてを俺がとろとろに蕩かしてやる。だから
* * * 裏緋寒となった里桜が竜頭を選び、彼もまたそれに応えたことで竜神は完全に覚醒した。集落の結界は強化され、渦巻いていた瘴気も浄化された。また、代理神が廃されたことで代理神に仕える桜月夜の役割も終わり、彼らは自由の身となった。 幽鬼と火の女神の息子だった颯月は至高神に従い、土地神として新たな集落を築くため、竜糸を去った。想いを寄せていた少女が、竜神と添い遂げるのを見届けることなく。 前世の記憶を持っている星河は竜頭が完全覚醒した後も神殿で御遣いとして生きる少女、雨鷺の傍にいることを選んだ。桜月夜の位を返還した星河は、一神官に戻り、雨鷺とともに自分たちを巡り合わせてくれた竜神の元に仕えている。 人間に身をやつした亡き集落の雷神だった夜澄は、まだ、この先どうすればいいのか、何も考えていない。 「いつまでそこで立ち止っておる」 昏々と眠りつづける朱華の手を握ったまま、夜澄は声のする方へ、険悪そうな視線を向ける。「……何しに来た」 「神々に愛された娘の様子を見に来るのに、何か問題でもあるのかえ?」 朱華の面倒を見ているのは雨鷺と氷辻。雨鷺が来るときは星河が付き添い、氷辻が来るときは、どういうわけか至高神が憑いてくる。ほんのひとときの憑依だからか、神殿に仕える他の人間は気づいていない。竜頭だけは知っていて黙っている気がするが……「言いたいことはそれだけか?」 呆れたように夜澄が言い返すと、ふんと可愛らしい声をあげながら至高神が言葉を返す。「おぬしが素直じゃないからいけないのじゃ。妾なら朱華を目覚めさせることなど簡単にできるのだぞ? ほれ、跪いてみるがよい。愛する娘を救いたいのだろう?」 こっちはいつ頭をさげて頼んでくるか楽しみにしておるというのに、ずっと手を握って祈ってるだけのおぬしを見るのはいいかげん飽きてきたのだとあっさり告げて、至高神はニヤニヤと笑う。自分の母神でありながら、この性格の悪さには辟易してしまう夜澄である。「――俺が頼めば、朱華(あけはな)を起こすだと?」 「おぬし